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2013.10.31

こころざしとしての図書館

 今日、図書館展が終わった。このブログも長いこと休眠していたが、ちょっとものを書きたくなった。

 昨年の図書館展のムーブメントは、武雄市の図書館に代表されるような「図書館の新しい姿」だったと記憶している。今年の図書館展では、それを一歩進めて「まちづくり」を図書館が担おうという提案があった。武雄市の図書館が開館し、町のちょっと「知的な」サロンとして(は)成功しているようだ。それはそれで良し。「まちづくり」のためには、低予算で効率的な手法だし、「まちづくり」はとても大切なことだと思う。

 しかし、ちょっと待て。図書館の「こころざし」が語られないのはどうしたことか。図書館はなぜ著作権の例外規定まで用意して守られてきたのか。それは「図書館のこころざし」があったからなのではないか。

 偶然なのだが、今年の図書館展で思わず目頭が熱くなったフォーラムを聞いた。それは「ひとりのがんに、地域の力を! つながる 人、まち、図書館」と題した長崎市立図書館の「がん情報サービス」の紹介セミナーだ。

 長崎市立図書館は開館が2008年というとても新しい図書館だ。TRCと長崎市がPFI方式で設立した図書館という点も目を引くが、とにかく歴史がない図書館だ。だから司書もみんな新米なのかなぁ…(ごめん)

 ある日、その長崎市立図書館のレファレンスサービスに、‘がん’の患者さん本人か家族なのか、‘がん’に関する本の相談に訪れたところからこの話は始まる。そしてその‘がん’は‘胃がん’とか‘乳がん’とかいうメジャーな‘がん’じゃなかったらしい。司書の方は困った。でも彼女は敢然としてレファレンスを開始したのだ。

 彼女は長崎大学病院に向かう。アポなしの突撃訪問だったらしい。病院のソーシャルワーカー室の前でうろうろしていると、何か相談事があるに違いないと声をかけられた。ソーシャルワーカーはきっと患者さんかその家族なのだと誤解をしたのだろうが、相談事があるのは間違いではない。彼女は図書館に訪れた利用者のレファレンスがしたくて相談に来たのだ。そして、病院備え付けの‘がん’に関するパンフレットを図書館に備え付けたいと申し出た。

 パンフレットが図書館に備え付けられ、‘がん’に関するコーナーができたただけで終わらない。病院とのつながりは図書館の「連続がん講座」に発展する。そこでは大学図書館に加え市立病院も巻き込み「がん情報サービス」が立ち上がる。
 市立病院を巻き込むにあたって彼女は公約する。「必ず市立病院が身近になるようにします!」その公約は6回の連続講座は終わった時にアンケートで見事に実現できたらしい。

 勘違いをしないで欲しい。私は「美談」としてこの話をしているのではない。
 考えて欲しい。実にみごとなレファレンスサービスではないか。当たり前のことを当たり前にやっただけなのだ。

 「市民の知的なサロン」だってけっして悪くはない。だけど、図書館の「こころざし」はそんなことにはないはずだ。新式の図書館を標榜する方々の向こう側に、「市民の知的なサロン」の向こう側に、図書館の「こころざし」が見えてこない。きっと「こころざし」はあるのだと思いたいが、私には見えてこないのだ。代官山のおしゃれな書店が我が街にやってきた。そしてそこに市民が集まった。それを梃子に何をやるのか。何をやりたいのか。

 繰り返して言う。著作権法は著作権を制限する例外規定として図書館に多くの権利を与えてきた。それは図書館に情報提供や知の循環や未来を担う子ともたちを育てるという義務と引き替えにだ。そしてそれは「義務」ではなく、図書館員すべての「こころざし」であって欲しい。

 感謝したい。今年の図書館展で数年来の居心地が悪い思いを脱し、未来へ向けた光を信じることができた。長崎市立図書館のS司書とそのチームが全国の図書館のこころを奮い立たせることを願っています。


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